湿った風が吹いている。
次第に空が濃いグレーへと変わっていく。


今日の映画科の3時間目は写真の実習で校内を撮っていた。
インたちと離れ、自分のペースで撮りたいと思うものを撮りつづけた。



裏庭で美術科に在籍する女子生徒を見つけた。
彼女のクラスも実習なのだろう。

一人で一心不乱にキャンバスに筆を走らせる真剣な眼差しをカメラに収めた。
全くこちらに気づいていない。


パッと一瞬何かが光った。

空を見上げるとポツリポツリと雨粒が落ちてきた。
そして暫くしてから雷鳴がする。

雷が苦手なチェギョンは……
雷にも気づいていないようだ。

……その集中力は他で使えよ。

思わず口角が上がるのを自覚する。


再び稲光が空を走る。
「キャーーーーーッ!!」

チェギョンは悲鳴と共に耳を塞ぎ、目をギュッと瞑りその場に踞った。

雨脚が一気に強まった。


気がつけば僕はチェギョンの元に走り出していた。

キャンバスをイーゼルごと持ち上げ、もう片方の手でチェギョンの手を取る。
一番近い軒下に逃げ込んだ。



「シ、シ、シン君?!……えっ?なんで?…サボりっ?!」
「……バカ、写真の実習だ。」
肩に掛けたカメラを見せた。
「……絵は、大丈夫、か?」
雨に濡れたせいでチェギョンの水彩画は少し色が滲んでいた。
「……何とか、しないとね……?」

ピカッと光る。
チェギョンが自分のエプロンを握り締める。

一段と雨脚が強まった。

屋根の下に居ながらも、
地面に跳ね返る雨水で足元が濡れていく。
僕たちが雨宿りする体育倉庫は鍵が掛かっていて中には入れない。
このままジッと待つしかない。


光るのと同時に雷鳴が轟く。

「いや~~~っ!!雷、キライーー!!」

そう叫び、僕にしがみつく。

チェギョンの柔らかい香りがフワリと薫る。
躰の奥が痺れて行く……。

僅かに震える細い背中に手を廻し抱きしめた。



僕のこのドキドキが……聞こえてしまうかな?


「……僕が……居る。安心しろ……。」

チェギョンの黒髪にキスを落とした。

「ヤ~~~ッ!シン君、雷、なんとかしてぇぇ~。」

……悪いが………さすがにそれは無理だ……。


暫くして雨は上がった。
雷も止んだ。

チェギョンは恥ずかしそうに躰を離した。

雲間から光りが差し込む。

「天使の梯子だ……。」
そう呟いたチェギョンの手を掴んだ。

そうしないと、僕の前からチェギョンが消えてしまいそうで……。

「??シン君?なに?」
「えっ?あ、ああ。いや……。」
「あっ!見て!!シン君、虹よ!」
「ああ。」

チェギョンと目が合った。

次の瞬間……。

そっと唇が重なった……。










翌日。

「今日、殿下と妃宮様。揃って熱出して休みらしいよ。」
「昨日、雨に打たれたからねぇ。」